ピアノに限らずですが、身体的なパフォーマンスをする何かについて
質の充実した訓練をされてきた人の身体は、そうでない身体とは全く違います。
たとえば、バレエリーナの軸の通った、かつ柔らかで強さのある肉体、
踊り・ダンスの名手の身体など…。一目瞭然ですね。
ピアノはそこまで一目瞭然ではありませんが、手を使うので、腕や手が訓練によって長年のうちに、変わってきます。
私は、ピアノと身体を意識していろいろな体験を積んで研究し始めた頃、合氣道の道場に通っていました。そこでは「氣圧療法」といって、身体をさわって流れをよくして整える施術の教室も道場と別にありました。
そこの先生が、あるとき私の手をさわって(握るというより、身体の中を感じ取るようにふんわり、しかししっかり持つというさわりかたです)、
「ピアニストの手だね!中の骨がばらばらで、普通の人とは違う」
とおっしゃいました。
手の甲の中にある骨は、それぞれ指につながっています。
それをばらばらに動かせるというのは、ピアノの訓練の賜物でしょう。
指を開くときは骨も広がり、閉じるときは骨も閉じます。
ピアノでは、それだけでなく、上下にも使うし、きゅっと小さく閉じることもあるし、広げたり閉じたりだけでなく、もっと細かい動きを使います。
身体は使ってきたようにできあがってきているのです。
また最近も、息子が習っている教室で合氣道を一緒に参加させてもらったときのことです。
「胸尽き」という技があって、受身の人の胸をグーで突くという型なのですが、
私が突いたのを見て、先生が
「すごい!手が長い!」と、感嘆の声。
私が突くたびに、「長い!」と、思わず笑っておられます。
「ピアノされてるからですね」と先生。
実際の「手」以上に、腕が長く見える。
合氣道では「氣」を見ます。意識が手の先まで、そしてさらに手の先より遠くまで使えていると、遠くまで氣(エネルギーといえばいいでしょうか)が通った動きになります。
ピアノを弾く意識で腕が使えるので、突いたときにすごく遠くまでエネルギーが届く、「長い手」になっていたということなのです。
「ピアノと身体」について書き始めるのに、まずはちょっとしたエピソードでした。